後進育成とは?ノウハウが言葉にならない理由とAIを使った進め方

後進育成に関する記事のイメージ図

結論:後進育成とは、自分の後に続く人へ仕事と判断を引き継ぎ、独り立ちさせることです。進まない一番の理由はベテランの判断軸が言語化されていないことにあり、生成AIを使うと、その判断軸を引き出して後進がいつでも聞ける形にできます。

来年で定年を迎えるベテランがいる、あるいは来期に別の部署へ動く人がいる。その人が担ってきた仕事を誰に渡すかを考えたとき、引き継ぎの日程は組めても、中身をどう渡すかで手が止まります。営業組織を預かっていると、一度は考えたことがあると思います。

手順書に書けるものは渡せます。止まるのは、状況ごとに変わる判断軸のほうです。この判断軸がなぜ言葉にならないのか、どうすれば生成AIで引き継げる形になるのか。順番に整理します。

読み進める前に、登場する3者を決めておきます。業務と判断軸を持っている「ベテラン」、それを受け取る「後進」、日程と範囲を決める「進める人」です。進める人は上司や人事のこともあれば、ベテラン本人が兼ねることもあります。ご自身がベテラン側であれば、この記事の「ベテランに聞く」は、自分に問いを向ける作業として読んでください。

後進育成が進まない理由と、生成AIを使った後進育成の進め方を、営業組織のAI活用研修を行っている当社、株式会社AnataAIがまとめました。

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目次

後進育成が進まない3つの理由

結論:進まない理由は、ベテランの判断軸が言葉になっていない、いつまでにどこまで渡すかが決まっていない、締切のある仕事が先に処理される、の3つです。どれも個人の意識ではなく仕事の組み方の問題なので、担当者を替えても同じところで止まります。

まず、これが自社だけで起きていることではない点を押さえておきます。技能やノウハウの継承に問題があるとした事業所は44.2%でした。その問題点を聞いた結果(複数回答)で最も多いのは若手・中堅の確保の難しさですが、次に多いのが「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」で60.6%です。人を確保できたとしても、そこから渡し切るまでが進まない、ということです。出典:厚生労働省 令和7年度「能力開発基本調査」(数値は同調査の調査結果の概要p.39〜40に記載)

理由1:ノウハウではなく判断が言葉になっていない

引き継ぎが止まる一番の場所は、手順ではなく判断です。訪問前に見ておく資料、見積書の作り方、社内の承認の順番は、1日あれば文章になります。実際、引き継ぎ資料を作ってもらうと、この部分は分厚くできあがってきます。

ですが、ベテランと若手の成果を分けているのは、たとえばこういう見極めです。問い合わせが来た会社の規模と担当者の役職を見て、この案件を追うか見送るか。相手が競合の名前を出してきたとき、価格の話に踏み込むか、いったん引くか。相手が予算に触れてきたとき、どこで値引きを止めるか。同じ商材を扱っていても、ここで差がつきます。

この見極めは本人の中にしかなく、聞かれないかぎり言葉になりません。決め方を尋ねると「経験ですね」「なんとなく違うと感じたので」といった答えが返ってきますが、隠しているわけではなく、決めた瞬間に何を見ていたかを本人も意識していないからです。何百件と繰り返すうちに、確認する順番が体の動きのようになり、途中の工程が意識に上らなくなります。

ここを「ベテランが抱え込んでいる」と受け取ると、進め方を間違えます。答えられる形で聞かれたことがなかっただけなので、「もっと教えてください」と頼んでも動きません。動かすのは、1件の実例に絞った質問です。なお、何を型にして何を人に残すかという切り分けは営業の属人化を防ぐ手順の記事で解説しています。

理由2:いつまでに、どこまで渡すかが決まっていない

2つ目は、終わりが決まっていないことです。引き継ぎが決まっていれば、時間そのものは取ります。同行の予定も、引き継ぎ資料を作る日も押さえられます。それでも進まないのは、いつまでに、どの状態になれば引き継ぎが終わりなのかが決まっていないからです。終わりが決まっていない引き継ぎは、資料を渡して同行を数回こなした時点で、なんとなく終わったことになります。

完了の条件がないと、聞く側も何を聞けばいいかが決まりません。「一通り教えてください」と頼まれたベテランは、何から話すか決まらないまま、目の前の1件の対応を説明して終わります。逆に「9月末までに、新規の問い合わせを1人で見積もりまで持っていける状態にする」と決まっていれば、聞くべきことは自動的に絞られます。引き継ぐ側が管理職の場合は、自分の業務そのものをどう軽くするかも同時に効いてきます。管理職自身のAIの使い方は管理職のAI活用の記事で解説しています。

理由3:締切のある仕事が先に処理される

3つ目は順番の問題です。育成は成果が出るまで数か月かかり、締切もありません。一方で、今週の見積もりも、明日の商談準備も、月末の数字も締切があります。同じ人が両方を持っていれば、締切のあるほうが先に処理されます。意識の高さとは関係がなく、そう並べれば誰でもそうなってしまいます。

後進育成を生成AIで仕組みにする5つの手順

結論:生成AIの役割は、ベテランの判断軸を何度でも同じ精度で返す相談相手です。基準を決めるのはベテラン、後進を育てるのは人という分担は変わりません。最初から全部をそろえようとせず、1つの業務、1人分から始めます。

生成AIに渡すのは、手順書に書けなかった判断軸のほうです。ベテランが実際に使っている基準を実例つきで聞き出し、それを指示文に書き込んで、その基準どおりに答えさせます。

これで後進は、聞ける相手を常に持つことになります。夜に翌日の商談準備をしていて迷っても、その場で聞けます。忙しそうな相手に3回目の同じ質問をする遠慮も要りません。教える側は同じ説明の繰り返しから外れ、空いた時間を、なぜその判断にしたかを話すことに使えます。ここから先は、その状態を作る手順です。

手順1:後進育成のゴールを、いつまでに、どこまでで決める

最初に決めるのは期限です。これは進める人が、退職の日、異動の内示が出ている日、繁忙期が始まる日のうち、動かせないものを起点にして置きます。「そのうち渡しておいて」で始まった引き継ぎは、終わり方が決まっていないので、期日の直前に資料の受け渡しだけをして終わります。

期限が決まったら、そこから逆算して引き継ぐ範囲を1つの業務単位まで絞ります。担当していた顧客をすべて渡す、と決めても手は動きません。「既存顧客の追加提案を1人で回せるようにする」「新規の問い合わせ対応を1人で見積もりまで持っていけるようにする」というところまで下ろします。そのうえで、到達状態を言葉にします。たとえば「1人で見積もりを出して、値引きの判断まで含めて通せる」という形です。ここまで書けると、次の手順で何を聞き出せばいいかが決まります。

手順2:判断軸を引き出す問いを決める

次に、ベテランに投げる質問を決めます。質問を用意するのは進める人、答えるのはベテランです。後進が同席して聞き役をやると、その場がそのまま引き継ぎになります。「あなたのやり方を教えてください」では答えられません。実際にあった1件を持ち出し、そのとき何を見て決めたかを聞く形にします。到達状態が「見積もりを1人で通せる」なら、質問は2つで足ります。

  • この案件を追うと決めたとき、何を見て決めましたか。逆に見送るときは、何が引っかかりますか
  • この見積もりで値引きを止めたのは、どこを見てですか。もう一段下げてもいいと判断するのは、どういう条件がそろったときですか

直近で決着した案件を2、3件並べて、同じ質問を繰り返します。1件目は「感覚です」で終わることもありますが、3件目あたりで「そういえば、稟議に上げる前に実際に使う部署の担当者と一度話せた案件しか通っていない」といった共通点が本人の口から出てきます。それが型です。うまく説明できなくても、質問に答えるだけで型になります。聞く側は答えを評価せず、そのまま書き留めます。

当社でも、社内の業務の一部を生成AIに引き継がせています。最初にやったのは、これまでの決め方をできるだけ多く書き出して覚えさせる形でした。これは失敗しました。量が増えるほど、肝心の場面でどれを使えばいいかが決まらず、当たり障りのない答えしか返ってこなくなったからです。作り直したのは、判断の原則を数個に絞り、それぞれに実際に迷った1件と、そのとき何を見て決めたかを添える形です。網羅よりも、迷った場面と決め手をそろえるほうが、あとから使える型になりました。

手順3:引き出した型をAIに覚えさせる

引き出した型を、自社の環境に合う生成AI(ChatGPT・Gemini・Claude・Copilotのいずれか1つ)に覚えさせます。作るのは進める人、日常的に使うのは後進です。複数を並行して使う必要はありません。すでに社内で契約しているもの、日常業務で開く機会が多いものを1つ選び、そこに集めます。

覚えさせ方は、聞き出した内容をそのまま指示文に書き込むだけです。ここで大事なのは、基準に当てはまらない相談が来たときの扱いを先に決めておくことです。

あなたは当社の営業のベテランとして、後輩からの相談に答える役です。追う案件と見送る案件を分ける基準は次のとおりです。〔手順2で聞き出した基準を箇条書きで〕。値引きを止める基準は次のとおりです。〔同じく箇条書きで〕。相談を受けたら、まず判断に必要な情報がそろっているかを確認し、足りなければ先に質問してください。答えるときは、結論と、その結論にした理由をセットで返してください。上の基準に当てはまらない条件の相談だった場合は、無理に答えを出さず「この条件は基準の外なので〔引き継ぐ側の名前〕に直接確認してください」と返してください。

最後の一文が効きます。これがないと、基準の外の案件にもそれらしい答えが返り、後進はそれを型だと思って進めます。基準の外に出たときだけ人に戻るようにしておけば、教える側が見る回数は最小で済みます。

手順4:後進が使いながら覚える

ここからは後進が主役になります。実際の案件で迷ったら聞き、返ってきた結論と理由を見て、自分の判断と合っていたかを確かめます。最初から完璧な型を作ろうとせず、使って足りないところを足していく順番にします。足りない部分は「この条件は基準の外」と返ってきた案件として現れるので、後進がそれを書き留めておき、まとめてベテランに聞けば次の質問の材料になります。3か月も回すと、最初の2つの質問では拾えていなかった場面が10件ほどたまります。

練習相手としても使えます。相手役には、自社が実際に相手にしている顧客の反応を、ベテランの見立てで設定します。「この規模の会社の情報システム部門は、最初の30分で必ず既存システムとの兼ね合いを聞いてくる」といった粒度です。無料の範囲でロープレを始める手順はAIロープレの記事で解説しています。商談の場面ごとに組んだ研修はAI商談ロープレ研修で扱っています。

手順1で決めた到達状態に届いたかどうかを教える側が見るのは、月1回で足ります。毎週の確認は、教える側の時間を戻すという狙いと逆に働きます。独り立ちしたと判断する基準やチェックの作り方は新人営業研修の記事で解説しています。

手順5:ベテランは判断の背景だけを補う

最後までベテランに残るのは、背景を1つ足す役です。粒度はこのくらいです。「この会社は3年前に一度失注していて、そのときの理由が導入後のサポート体制だった。だから今回は価格より、担当者がつくことを先に言ったほうがいい」。過去の取引の経緯、その業界特有の決裁の流れ、担当者個人の関心といった、記録に残っていない事情がここに入ります。1件あたり数分で済み、話すのが得意でない人にも回せる役です。

後進育成を1人のベテランに集中させない

ここまでの手順を回しても、引き継ぎが1人のベテランに集中していると、その人の週次の予定が埋まった時点で全部が止まります。渡す相手が複数いるなら、同時に3人へ渡そうとせず、1人ずつ順番に進めます。1人目で型ができれば、2人目は同じ型を使いながら足りない部分を足すだけになり、教える側の時間は大きく減ります。教える側も1人に固定しないほうが安全です。追う・追わないの見極めはAさん、値引きの線はBさんというように、判断ごとに担当を分ければ、1人の予定に全部がぶら下がる状態を避けられます。

個人で明日から始められるのは、1つの業務、1人分の型づくりまでです。教える側の時間の確保と、引き継ぎに使った時間を評価に載せるかどうかは組織で決める話なので、先に1人分の結果を作り、それを見せてから相談するほうが通ります。

最後に、立て付けの話をしておきます。後進育成は、ベテランに押し付けられる余計な仕事ではなく、その人が20年かけて身につけた判断軸を、本人が現場を離れたあとも組織に残す作業です。頼むときにこの言い方をするかどうかで、返ってくる答えの中身が変わります。

まとめ:後進育成は1業務から始めて仕組みに残せる

  • 後進育成とは、自分の後に続く人へ仕事と判断を引き継ぎ、独り立ちさせること。主語は引き継ぐ側で、退職や異動という動かせない期日がある
  • 進まないのは意識の問題ではなく、判断軸が言葉になっていない・いつまでにどこまで渡すかが決まっていない・締切のある仕事が先に処理される、という仕事の組み方の問題
  • 生成AIが引き受けるのは、判断軸を言葉にする作業と、同じ説明を繰り返す時間。期限と到達状態を決め、質問で型を引き出し、覚えさせ、後進が使いながら覚え、教える側は背景だけを補う

当社、株式会社AnataAIは、生成AIの活用と社内浸透を目的とした「生成AI研修」を提供しています。後進育成まで手が回らない、ベテランの判断をどう言葉にすればいいかわからない、といった状況で外部への依頼を検討されている場合は、お気軽にまずはご相談ください。

後進育成のよくある質問

Q1. 後進育成の読み方と、職務経歴書での書き方を教えてください

A. 読み方は「こうしんいくせい」です。「ごしん」とは読みません。職務経歴書や目標設定シートでは「後進の育成に尽力する」という形で使われ、この場合は担当していた業務を引き継げる人を実際に育てた実績を指します。人を増やした話や助言をした話と受け取られないよう、渡した業務名を添えて書くと伝わります。

Q2. 目標設定シートに書くとき、後進育成と部下育成のどちらを使えばいいですか

A. 渡す業務と期日が決まっているなら後進育成、決まっていないなら部下育成で書いてください。書き方も変わります。部下育成は「メンバーの成約率を上げる」のように相手の伸びで書けますが、後進育成は「9月末までに既存顧客の追加提案を1人で回せる状態にする」のように、渡す業務と期日をセットにしないと達成したかどうかを判定できません。期末に「指導した」という自己申告だけが残るのを避けるため、どちらの意味で書くかを期初に評価者と合わせておくのが確実です。

Q3. すでにある動画教材やeラーニングと生成AIは、どういう順番で使えばいいですか

A. 教材を先に一周させてから、生成AIに切り替えてください。順番を逆にすると、手順を知らないまま相談することになり、質問が「そもそも何をするのか」に戻ってしまいます。教材を終えたあとに切り替えると、後進が持ち込む質問が手順の確認から判断の相談に変わり、教える側が答える回数も減ります。すでに購入済みの教材は作り直す必要はありません。教材で扱っていない場面がどこかを1度だけ洗い出し、その部分を引き継ぐ側から聞き出して足すほうが早く進みます。

Q4. ベテランが自分の判断を言葉にすることに乗り気でない場合はどうすればいいですか

A. 説明を求めるのをやめて、実際にあった1件について質問に答えてもらう形にしてください。自分のやり方を体系立てて話してほしいと頼むと、何から話せばいいかが決まらず止まります。先週決めた1件を持ち出して、何を見て決めたか、逆に見送るときは何が引っかかるかを聞くほうが答えやすくなります。頼むときは時間を先に区切り、「15分だけ、この1件について聞かせてください」と伝えると受けてもらいやすくなります。

Q5. 引き継ぐ相手が複数いる場合、誰から始めればいいですか

A. 期限が近い業務を担う1人から始めてください。3人に同時に引き継ごうとすると、教える側の時間が3等分され、どれも中途半端なまま期限が来ます。1つの業務、1人分に絞って型ができれば、2人目以降は同じ型を使いながら足りない部分を足すだけで済みます。誰から始めるかで迷ったときは、担当者の退職や異動の時期が近い業務を先に選ぶのが確実です。

この記事を書いた人

株式会社AnataAI 代表取締役社長 村田欣祥

村田 欣祥

株式会社AnataAI 代表取締役社長。2007年より人材ベンチャー、東証上場企業グループ会社の取締役社長を経て、2023年に株式会社ラクスへ入社。「楽楽精算」等の営業戦略に携わる。累計10年以上の営業組織マネジメントと経営経験を活かし、2026年にAnataAIを創業。

「営業職こそAIを武器に」を掲げ、現場目線の生成AI活用による営業DX・業務改善コンサルティングやAI研修を提供している。

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